「ホドロスキーのサイコマジックにみる癒し」
私の相棒、カモワン・ホドロスキー版マルセイユタロットの製作者のひとり、アレハンドロ・ホドロスキー監督91歳。昨年のあいちトリエンナーレで日本初公開された映画「ホドロスキーのサイコマジック」を先日、アップリンクで見てきた。
ホドロスキー氏は演出家であると同時に、詩人、サイコセラピスト、タロット研究家などの顔をもつ多才な人物。
サイコマジックとはそんな氏による独自のセラピーで、相談者の悩みにあわせた行動療法によって囚われから解きはなち癒すことを目的にしている。
10組の相談者のケースがオムニバス形式で描かれるが、悩みの根本に両親との関係不全、家系の影響がありそこに光を当てる。
母からの愛を感じずに育った女性には、全裸になって赤ちゃんのように母の胸からミルクを飲んでもらう。
家族間で疎外感を感じてきた男性には、家族に見立てたかぼちゃを斧で存分に叩きわって、破片を郵送してもらう。
女性性の抑圧に苦しむチェリストには、経血を楽器につけての演奏や経血で自画像を描いてもらう。
一見怪しげだが真実味がある。カルト映画の巨匠であるホドロスキー監督のすべての作品でも、サイコマジックを施していることが明かされているから。
とくに近年の自伝的作品「リアリティのダンス」「エンドレス・ポエトリー」では、抑圧的で悩まされた父親との関係を和解、肯定のストーリーに書きかえて、その意味を問いなおしている。
そうやって長年自分を癒し、他人様を癒してきたのだ。
本作で映像にはでていないが、相談者に対しておそらくタロットリーディングをしてからサイコマジックをおこなっていると思う。
これがセットだからこそ、みな最後に憑き物がおちたように晴々とした笑顔を見せているのも納得できるのだ。
このプロセスをホドロスキー流であらわすとすれば、「吊るし」「隠者」「13番」(「13番」の視線は「星」をみているはず)になるのではないかな。
個人的に印象に残ったのはウツの80代女性のケース。
自分の負の感情を嫌悪して苦しむ彼女に、「あなたは私で、私はあなただ」といって抱きしめるホドロスキー氏。そして近所の樹齢数百年の大木に一緒に出かけて、21日間毎日水をあげることを提案する。
タロットでいうと、「神の家」という自我に閉じこもった状態から外へ出て、自分が宇宙や自然の一部であることを思いださせようとするのだ。
著書「タロットの宇宙」を読むとグルに近い境地であることがよくわかる。それは50年近くボランティアでタロットリーディングをしてきたからこそ、でもある。
本作の後半でソーシャルサイコマジックとしてがん治療中の女性、LGBTQなどの例が紹介されるが、多数の集合意識を浄化しようとする意欲を感じた。
職業タロットリーダーとして日々リーディングするなかで、そこにクライアントの複雑な思いやトラウマを見ることもある。
いっしょにカードの象徴を読んで話しあいながら、自分と相手の神性を信じて抱えているものに気づき、浄化していく共同作業。
その後クライアントは自らの思いを叶えるための行動が大切になるが、トライ&エラーが必要な場合もある。
個人の自立を応援しているので、くじけそうなとき、つらいときには安心してサービスを利用してほしい。そのためには私も精進していこうと改めて思わされた映画鑑賞だった。